昨年(2023年)、サザンオールスターズは、デビュー45周年を迎え、テレビを始めとし、多くのメディアで取り上げられていました。その中で、アイドルグループのももいろクローバーZの玉井詩織、そして、タレントの佐藤栞里が、それぞれ、両親が、サザンオールスターズのファンであり、自身の名前がこのサザンオールスターズの1981年発売のシングル曲「栞のテーマ」に由来があることをエピソードとして語っていました。
玉井詩織は、1995年生まれ、佐藤栞里は、1990年生まれ、そして、この「栞のテーマ」の発売が1981年であることから、長きに渡ってファンを獲得し続けている名曲であり、巷には、「栞のテーマ」が由来で、命名された「しおり」という名前の女性が、芸能人を含め相当数、存在することが想像されます。
では、タイトルの「栞」を我が子の名前にまで付けてしまうほど愛されるこの曲の魅力は、何でしょうか。リズムに関しては、デビュー後数年、多くの楽曲(恋はお熱く、涙のアベニュー、ラチエン通りのシスター等)で、当時のサザンオールスターズにとって、サザンオールスターズというバンドをサンバ以上にフォーマット化していた感さえあるハチロク(八分の六拍子)を使用しているという点は、この楽曲における、端的に言えば「片想い」というテーマを分かりやすくかつ感情豊かにドラマチックに表現する手慣れた手法として、最適解であったのでしょう。
しかし、特筆すべきは、世の中にごまんとある片想いをテーマにした楽曲群にはほとんど見つけられない、ある仕掛けが、この楽曲には存在し、それこそが、片想いという凡百なテーマに抜きんでたオリジナリティある表現を与え、聴き手の感情移入を増幅させています。
それは、曲の3番で、サビに入る前のメロディーで唄われる「No-one could love you like I do」にあたるところです。この歌詞は、英語を母国語としないほとんどの聴き手には、意味を伴った言葉として耳に飛び込むことはなく、ただ「ノゥワンクラグラカイドゥ」と聴こえてきます。この響き(語感)を耳にすると、前後の歌詞とそれを乗せるメロディー、桑田佳祐の唄い回しによる効果もあり、自分が「栞」に胸が締め付けられるほどにたまらなく好きだという気持ちが想起させられるのです。
「クラクラ」するという擬音が、目がくらむことを表現し、「ワクワク」するという擬音が胸躍ることを表現しているように、ここで唄われる「ノゥワンクラグラカイドゥ」というフレーズは、もはや、胸締め付けられるほどにたまらなく好きであることを表現する桑田佳祐が新たに生み出した造語として成立しています。しかも、それが擬音でありながら、翻って、本来の歌詞の意味としても、「No-one could love you like I do」(自分のようにあなたを愛せる男はいない。)は、それと一致しているという仕掛けも存在します。
実際のところも、桑田佳祐は、その音韻的な響きが先にあり、そこから「No-one could love you like I do」という歌詞を引き当てたものとさえ思わせます。なにせ、後には、スケベという言葉をメロディーから引き当て、それを公然と唄うために、既定の業界的抑圧からの戦略的解放として、「Skipped Beat」という歌詞をあてはめて、あまつさえ、それを曲のタイトル(「スキップ・ビート」(KUWATA BAND)1986年発売)とし、しかも、タイトルのイメージ通りの跳ねたビート感のブルージーな楽曲を世に放った天才なので。
コメント