自身の中学生時代、Yという仲の良い友人がいました。そのY君は、当時で言うところのオカマキャラで、アイドルや芸能界に詳しく、クラスは違いましたが、同じ部活動でよくおしゃべりをしていました。その彼が、熱心な中森明菜のファンで、ある日、ものすごく良いからぜひ聴いて欲しくて、貸したいといわれたアルバムが「BITTER AND SWEET」(1985年発売)でした。
しかしながら、仲が良いとはいえ、何となく、他のクラスのいわゆるオカマキャラのY君とそこまで、仲良くすることが、同じクラスメイトからの何か疎外の一因にならないかなどと考えて、やんわり断ってしまい、Y君が非常に残念そうにしていたことを覚えています。また、当時の音楽の聴き方は、中森明菜に対してもそうですが、シングル曲を歌番組で追いかけるのが主で、アルバムまで触手を伸ばすのは、もう数年先のCD時代になってからでした。
そして、その「BITTER AND SWEET」ですが、社会人となり、中古レコード屋にて、歌詞カードやジャケットの状態が不良のものが100円で売っていたので、当時を思い出し購入して、じっくりと聴いてみました。
自分は愚かでした。激しい悔恨の念に襲われました、何故、あの時、くだらない偏見で、学校というちっぽけな世間体のようなものを気にして、Y君から借りて聴くことができなかったのかを。それぐらい充実した素晴らしい内容のアルバムでした。
中でも、B面一曲目の「UNSTEADY LOVE」は、角松敏生作詞・作曲プロデュースの曲で、ベースは、当時の角松サウンドを象徴する青木智仁が担当しファンキーなプレイを披露、中森明菜も角松側に寄せるのではなく、あくまで、自身の解釈と卓越した表現力で歌唱し、名曲を誕生させています。
この曲は、巨大なアイドルである中森明菜の楽曲という文脈上、アイドル歌謡に分類されてしまいますが、作品の性質上、明らかに、City Popであり、中森明菜をアイドルとしてある種の偏見のない外国から、新たにカテゴライズし直しされて、昨年の松原みきの「真夜中のドア」のように、突如、大ブレイクするようなことがあり得ないだろうかなどと夢想してしまいます。そして、それに足り得るポテンシャルを秘めているだけの曲であることをY君への罪滅ぼしの意味も含めて、今回、紹介させてもらいました。
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