1994年に発売されたこの桑田佳祐のソロシングル「祭りのあと」は、非常に人気の高い楽曲となっています。それは、ひとえに、この曲の歌詞の中にある「悪さしながら男なら 粋で優しい馬鹿でいろ」というフレーズに多くの人が胸を鷲掴みにされてしまうからでしょう。
この楽曲は、桑田佳祐あるいはサザンオールスターズの多くの楽曲の中でも、他に同じカテゴライズされる曲が少ない珍しい曲調、曲想になっています。桑田佳祐が革命的に生み出した日本語を英語発音のようにして複数音を1音符に乗せる唄いまわしを排し、一音一音、言葉がしっかり耳に飛び込んでくる演歌ロック調(?)な歌唱で、一定の人生を経験した男のある種の諦観のようなものを唄います。
そして、曲の後半には、前述の「粋で優しい馬鹿でいろ」というフレーズが登場します。「粋な馬鹿」でも「優しい馬鹿」でも、ましてや粋で優しい「紳士」でもありません。しかし、「粋」「優しい」「馬鹿」というそれぞれ背反するような3つの語句を並べた途端に、その違和感は融和し、ひとつの生き方の理想、価値観を表すフレーズとして見事に浮かび上がります。
これまでの私利私欲を追い求める生き方に疲れ果て、何よりそれが虚しいことに気づいたあとには、つまり「祭りのあと」には、「粋で」(さりげなく)「優しい」(人への思いやり)「馬鹿」(自己の利益より他人を優先してしまう)でいろと。
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