「糸」を始めとして、「時代」、「ファイト!」、「化粧」など中島みゆきの多くの楽曲が、ポップス系はもちろん演歌やクラシック系の歌手にまで幅広くカバーされています。そのカバーされている楽曲のラインナップを眺めてみると、必ずしも、元々商業的に大ヒットした楽曲というわけではないことから、純粋にその楽曲が与えた衝撃や感動が、あらゆるジャンルの歌手達に唄わずにはいられないという衝動を駆りたてた結果といえるでしょう。
但し、その数多の歌い手達によるカバー曲群において、中島みゆきというブランドの毒々しいまでのオリジネーターである中島みゆきを超える表現に到達した作品を、残念なことに、ほとんど聴いたことがありません。
しかしながら、まだ、若かりし中島みゆきから、「あばよ」などの楽曲提供を受けた研ナオコは、中島みゆき本人以上にその提供曲の世界観を理解し、当時の中島みゆきを凌駕する独特の歌唱法と唄声で表現することで、見事にヒットに結びつけました。逆に、その提供曲をカバーした中島みゆきの方は、その楽曲に付いてしまった研ナオコの個性を剥がし取ることが、どうしてもできずじまいの印象を受けます。
一方で、研ナオコは、サザンオールスターズの名バラードとして挙げられる、美しいメロディラインを有し、絶妙な歌詞が夏の終わりの湿った情感を醸し出す「夏をあきらめて」(桑田佳祐作詞・作曲)をカバーし、こちらもヒットさせています。そして、この楽曲に対して、極限まで、哀愁と退廃を与え、しかもそれを軽々と唄っている研ナオコの「夏をあきらめて」こそが、実は、この楽曲を名曲に押し上げたと言っても過言ではありません。
とかく個性的なルックスを取りざたされることも多かった研ナオコですが、何よりも個性的なのは、その歌唱法と優れた表現力であり、中島みゆきも桑田佳祐も征した稀代のシンガーとして評価され得る存在なのではないでしょうか。
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